小説目次
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二通、メールが届いた。
件名:もう少し
送信者:ア#*
本文:
ありが*#
%けど、あたし¥
あな$達にとんでもな#@とを
させてしまって%+のかも…
でも、もう少*、&たしに力を貸して。
件名:移動
送信者:ワイズマン
本文:
禍々しき波とみられる巨大データは、
いまだに移動を繰り返している。
おそらく前回の方法は通用しない。
至急来てくれ。
最初の一通はアウラのメールだった。それは間違えようもない。何かを訴えているような文章。
だが何を訴えているのだろう?
二通目はワイズマンからだった。
今の僕にはこちらのほうが重要だった。ようやく『禍々しき波』に反撃できる態勢が整ったのだから。
アウラのメールに対する疑問を頭から消して、急いでログインした。
タウンではすでにメンバーが集まっていた。
「よし、作戦会議を始めよう」
と、ワイズマンが言った。
「『波』は現在も移動を続けている。場所の特定が困難ならば、こちらから移動先を限定してしまおう――というのが今回の作戦の骨子だ。そうだね?」
ワイズマンは僕を見た。
前回の八相を倒した後で、今後のことについてワイズマンと相談したのだ。
僕はうなずいた。
「前にオルカから聞いたんです。オルカ――つまりシャチは、獲物を捕るとき、仲間たちで囲いを作って逃げ道をふさぐそうです。でも、完全に逃げ場をなくすと、獲物はバラバラに散ってしまう。だから、わざと逃げ道をひとつだけ作って、都合のいい場所に追い込むんだそうです」
「都合のいい場所って?」
ブラックローズが尋ねた。
「海面。獲物にしてみれば行き止まりだからね。相手が移動しているのなら、その方法が応用できないかって」
「敵を逃げ場のない場所に追い込んで叩く、というわけか」
リョースが言った。
「いい作戦だわ」
ヘルバがうなずいた。
ああ、ヤスヒコ。お前のものすごくどうでもいい
ワイズマンが言った。
「リョースから提供のあった汚染エリアの分析結果をもとに、ヘルバにはワクチンプログラムを開発してもらっている」
「ワクチンと言っても、『波』を駆除するほどの効果は無理」
と、ヘルバが言った。
「でも、追い込む程度なら十分に可能だわ。まかせなさい。だけど、追い込み役全員がワクチンを装備する必要がある。人数が足りるかしら?」
「それならば問題ない。追い込みはシステムに任せてくれ。私が豚走隊を率いてその役にあたろう」
リョースがうなずいた。
その他もろもろの細かい取り決めを決定した。
この次に『波』を探知したら、そのまま自動的に作戦開始ということになり、その場は解散となった。
僕がログアウトしようとしたとき、リョースが傍らにやってきた。
「今回の件は君が絵図を引いたのか?」
と、彼は言った。
「えーと、今回というと……」
僕はちょっと緊張してしまった。
思えばこの前怒られてからリョースとこうして向い合って話すのは初めてだ。
「以前、君が会談の場を用意したとき……いや、違うな。おそらく、君がヘルバを説得してからのことだよ」
リョースは僕の表情を見てにこりと笑った。
笑った? リョースが笑った?
「正直なところ、我々としても手詰りを感じていた。そのための打開策がハッカーと共闘するしかないということも悟っていた。だが実際に行動に移せるかどうかは別問題だ。それはハッカーどもも同じだったろうと思う」
彼は言った。
「そこへ、君がやってきた。我々を後押しした。見事な手腕だ。あれは君だけで考えたことなのか?」
「いえ。仲間たちに相談しました。それに……」
「それに?」
「徳岡さんという方にアドバイスをもらいました」
無意識の内に打算が働いたのかも知れない。
旧友だという徳岡さんの名前を出せば、リョースとさらにうまくやれるかもしれない、そう思ったのだった。
浅はかだった。
「徳岡だと? 徳岡純一郎のことか?」
徳岡さんの名前を出した途端、リョースの笑みがあっという間に消え去り、また元の苦虫を噛み潰したような、沈鬱な表情に戻ってしまった。
「そうか。トクの奴が……君とつながっていたのか」
トク?
忌々しそうな口調。あまり友達という感じではなさそうだった。名前を出したのは失敗だったかも知れない。
しばしの沈黙の後でリョースが言った。
「なるほど。言われてみれば、まず外堀を埋めるやり口が奴に似ている」
「あの……」
僕は遠慮がちに言ってみた。
「徳岡さんは、土屋さんとは戦友だと言ってましたけど」
「戦友? 私が? あのハッピーアロハ野郎と?」
なんかすごい単語が出た。
リョースは逆上しかけて我に返ったらしく、頭を振って僕に背を向けた。
「あの男はデバッグが半分終了した時点でぬけぬけと仕様を変更するような男だった。奴のせいでどれだけうちのチームが引っ搔き回されたかわからん。奴の名前をまた聞くとは思わなかった。まさか君とつながっていたとは……」
僕が何かを言う前に転送して消滅してしまった。
話が違う、徳岡さん……
僕はそう思ったが、もう後の祭りだった。
(続く)