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昔々、僕がまだ小学二年生の頃だったと思う。
家庭訪問があり、担任の先生が当時引っ越してきたばかりの僕の家へやってきた。
転校してさほど時間も経っていない頃だったから、僕は先生のことを良く知らなかったし、何を言われるのか、見当もつかなかった。
担任は穏やかで優しげな顔をした中年の女の先生だった。
彼女は僕のことを誉めそやし、転校初日から見ているが真面目で丁寧な作業ができる、今度クラスで係決めがあるが、君には黒板消しの係が向いていると思う、と言ってくれた。
母親の前で褒められて僕は嬉しくなった。
それに、新しい環境で僕は心さびしく思っていた。その僕を見守ってくれる大人がいた、そう思ったのだ。
だが実際はそうではなかった。
係決めの当日、クラスのみんなは我も我もと挙手して様々な係に立候補した。
その勢いの余りのすさまじさに、黒板消しの係に名乗り出ようとした僕は気後れして手を上げ損なってしまった。
先生はクラスの係決めをスムースに進行させるため、適当に目星をつけた子に対して家庭訪問時に「仕込み」をしていったのだ。
クラスのみんながあまりにも張り切り過ぎたために何人かは係から外れて泣きべそをかいたりしていた。
僕はその時の先生の満足そうな顔を忘れることはできない。彼女は僕のことを、係から外れた子のことを見向きもしなかった。ただ短時間で全てが決まったことに喜びと手ごたえを感じている様子がありありとうかがえた。
その時、僕は初めて軽蔑するということを覚えた。
(続く)