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第21話

ふと僕は自室の机に突っ伏している自分に気付いた。

半分ずれてしまったFMDフェイス・マウント・ディスプレイを外し、室内を見回した。

いつもの僕の部屋。

窓からはすでに日の光が差し込んできている。時刻は六時半。スズメのチチチチという鳴き声も聞こえる。朝だ。なんてことだ。またしても寝オチしてしまったのか……

そこで記憶が鮮明になった。僕は昨夜の『The World』内でのことを思い出していた。

違う。寝オチなんかではない。

僕たちは怪物の咆哮に吹き飛ばされ、それで――意識を失っていたのだ。

仲間たちはどうなったのだろう。ブラックローズとバルムンクは無事だろうか。

急いでコントローラを握り直し、メーラーを確認してみたが、二人からの連絡はなかった。

僕は安否の確認メールを出すことしかできなかった。

 

その日は一日中そわそわしていた。

後から現れた怪物はともかく、僕たちはオルカを意識不明にした「死神」を倒すことに成功したのだ。ひょっとしたら、それでヤスヒコは助かるのではないか。意識が回復するのではないか。そんな期待があったのだ。

でも、放課後、その期待はあっさり打ち砕かれた。

ヤスヒコの入院する病院では、事態は何も変わっていなかった。

面会謝絶。

僕は肩を落としてとぼとぼと病院を出た。

完全な手詰まりだ。

アウラという少女は「死神」にデータドレインされ、僕たちは「死神」をなんとか倒したが、その直後にまた別の巨大な怪物が現れた。そしてヤスヒコは意識不明のままだ。

もはやどうすればいいのかわからない。

そもそも、僕なんかがどうにかできることではなかったのだろうか。

そんなことを思いながら歩道を歩いていた。

だから、声をかけられたことに気付かなかった。

「ちょっと、君」

僕が足を止めて振り向くと、その男の人はにっと笑った。声を潜めて言った。

「今、病院から出てきたよね。『The World』をやって意識不明になった子と知り合い?」

僕はどきりとして相手をまじまじと見た。

もう秋も深まっているというのに、派手な原色のアロハシャツなんかを着ている。顔には丸いサングラス。どう控えめに見ても怪しい。

彼が顔を寄せると、きついタバコの臭いが僕の鼻をついた。

「ちょっと話を聞かせて欲しいんだけど。いいかな?」

と、彼は言った。

 

(続く)