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ふと僕は自室の机に突っ伏している自分に気付いた。
半分ずれてしまった
いつもの僕の部屋。
窓からはすでに日の光が差し込んできている。時刻は六時半。スズメのチチチチという鳴き声も聞こえる。朝だ。なんてことだ。またしても寝オチしてしまったのか……
そこで記憶が鮮明になった。僕は昨夜の『The World』内でのことを思い出していた。
違う。寝オチなんかではない。
僕たちは怪物の咆哮に吹き飛ばされ、それで――意識を失っていたのだ。
仲間たちはどうなったのだろう。ブラックローズとバルムンクは無事だろうか。
急いでコントローラを握り直し、メーラーを確認してみたが、二人からの連絡はなかった。
僕は安否の確認メールを出すことしかできなかった。
その日は一日中そわそわしていた。
後から現れた怪物はともかく、僕たちはオルカを意識不明にした「死神」を倒すことに成功したのだ。ひょっとしたら、それでヤスヒコは助かるのではないか。意識が回復するのではないか。そんな期待があったのだ。
でも、放課後、その期待はあっさり打ち砕かれた。
ヤスヒコの入院する病院では、事態は何も変わっていなかった。
面会謝絶。
僕は肩を落としてとぼとぼと病院を出た。
完全な手詰まりだ。
アウラという少女は「死神」にデータドレインされ、僕たちは「死神」をなんとか倒したが、その直後にまた別の巨大な怪物が現れた。そしてヤスヒコは意識不明のままだ。
もはやどうすればいいのかわからない。
そもそも、僕なんかがどうにかできることではなかったのだろうか。
そんなことを思いながら歩道を歩いていた。
だから、声をかけられたことに気付かなかった。
「ちょっと、君」
僕が足を止めて振り向くと、その男の人はにっと笑った。声を潜めて言った。
「今、病院から出てきたよね。『The World』をやって意識不明になった子と知り合い?」
僕はどきりとして相手をまじまじと見た。
もう秋も深まっているというのに、派手な原色のアロハシャツなんかを着ている。顔には丸いサングラス。どう控えめに見ても怪しい。
彼が顔を寄せると、きついタバコの臭いが僕の鼻をついた。
「ちょっと話を聞かせて欲しいんだけど。いいかな?」
と、彼は言った。
(続く)