小説目次
ボタンをクリックすると開きます
頭痛がひどい。目がかすむ。忘れずに薬を飲まなくては。私は端末を立ち上げる。コマンドを入力する。ゆっくり指を動かしてタイプする。間違いのないように慎重を期さなくてはならない。設定ファイルを書き換える。テキストエディタが不調のまま再起動する。光が。時間が足りない。世界を再現するための覚書に目を通す。早く彼女に会いたい。彼女に。私たちは体験の及ばないところで愛に満ちた無意識を満喫する。永遠に続く終わり。黄昏の日々。めまいがおさまらない。動悸が。忘れずに薬を飲まなくては。私は電子の隙間に身を横たえる。手が痺れていく。雨が降る。だから私は、彼女をアウラと名付けよう。思考の果てにたどり着く場所、たどりつけぬ場所。嵐はすでに去ったのだろうか。それともこれからやってくるのだろうか。考えがまとまらない。メモに残す。彼女に私たちの意思を託そう。彼女に私たちの未来を託そう。忘れずに薬を飲まなくては。教会で鐘が鳴る。私と、私ではないもの。彼女と、彼女ではないもの。私と彼女と、私と彼女ではないもの。はるか彼方の無限とも思えるデータ数列の最先に宿るもの。私自身の罪深い何か。永遠なるものとつかの間のもの。真なるものと偽なるもの。有限なるものと無限なるもの。世界はあらゆるもので満ち満ちている。雨は降り続けている。これから始まるすべての物事について記録する。無数の断片が存在することになるだろう。碑文をたどる。エンターキーを押す。急がなくては。私にはもう時間が残されていない。彼女こそ私たちの希望。忘れずに薬を飲まなくては。私は今、薬を飲む。
(続く)