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第44話

翌日、リョースから電話がかかってきた。

「なぜモンスターと闘った?」

リョースが尋ねた。僕を責めている口調ではなかった。ただ淡々と事実を確認しているという感じだった。

「逃げ道がありませんでした」

と、僕は答えた。

「とり残されてしまったんです。僕たちが無事に戻るには、あの葉っぱを倒すしか手がありませんでした」

長い沈黙があった。

リョースはとても疲れているようだった。僕に対して何気なさを装っていたがその口ぶりの端々から疲労の色が感じられた。

やがて彼は言った。

「リアルで今何が起きているか知っているか?」

「はい」

今朝のテレビや新聞はそのことばかり取り上げていた。信号機が故障し、電力がストップし、高速道路上で車が停止し、みなとみらい地区では地区全体が機能不全におちいった。とある新聞の記事は「まるでプルートキスの再来だ」と書きたてていた。

ネットワーク全体に異常が起きた時間と、メイガスを倒した直後、『The World』に異変が起きた時間。タイミングが合いすぎている。

リョースの指示を無視してメイガスを倒した瞬間、カルミナ・ガデリカは汚染されてしまった。ログアウトしたら、ネットワーク全体がおかしくなっていた。

ゲームのせいでリアルがおかしくなったのか?

そして、ゲームがおかしくなったのは、僕のせいなのか?

「あのモンスターについては、そもそもデータがない。あのモンスターを倒したからといって、異変が発生するきっかけになったとは断言できない。私が君に闘うなと言ったのは、むしろ君たちの身を案じてのことだった」

リョースは続けた。

「だが、現状、このようになってしまっては、君たちの行動を制限せざるを得ない」

「それは……」

カイトを取り上げられるということですか、という質問を飲み込んだ。もし口に出したら、本当にそうなってしまうような気がしたからだ。

「具体的にどのような処遇になるかはまた追って連絡する。それまでは『The World』へのログインを極力控えてくれたまえ」

「はい……」

「ひとまず、君たち全員の無事が確認できてよかった。それでは」

電話は切れた。

リョースは僕を非難するような口ぶりを見せなかったが、彼が深く疲れきり、内心失望しているのは明らかだった。

彼は僕というカードを手札に加えることで状況の改善を図った。

だが事態は一層ひどい方向へ転がり始めた。

そして断言できないまでも、そのきっかけ、転がりだす一押しをしてしまったのは、ほかならぬ僕なのかも知れないのだ。

僕はパソコンの前に座ってうなだれた。

リョースのいたわりの言葉は面と向かってとがめられるよりも正直十倍くらい堪えた。

――その時、僕は、ブラックローズからのメールが届いていることに気付いた。

 

(続く)