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後日、ワイズマンの出してきた条件は意外なものだった。
「私を君たちのパーティーにくわえてほしい」
と、彼は言った。
「君たちと一緒にいれば、私は『The World』のことをもっときっと深く知ることができるに違いないからね」
僕とブラックローズは顔を見合わせた。
「それでいいの? そんなので?」
どんな代償を請求されるのかとひそかにびくびくしていた僕は内心ほっとして言った。
ワイズマンはなぜか呆れたような目で僕を見た。
「君は自分の価値を知らなすぎるな。君と共に行動できること、それは何物にも換えがたい値打ちがあるんだよ」
「……どう思う?」
僕はブラックローズに相談した。
「ちょっと変な人だけど、別にいいんじゃない?」
彼女は肩をすくめて言った。
「あたしは構わないよ」
というわけで、ワイズマンが僕たちのパーティーに加わった。
「よろしく。カイト、ブラックローズ。碑文については後ほどまとめたものをメールで送ろう……一応断っておくと、私は戦闘にはそれほど重きを置いていない。だが、トレードとか交渉ごととか、そういうことでは力になれると思うよ」
ワイズマンはにこにこと笑いながらそう言った。
だがそれは彼独自の謙遜の表現だとすぐにわかった。
ワイズマンは筋金入りの『The World』ヘビーユーザーだったのだ。
彼は『The World』のさまざまなゲーム攻略の情報に通じていた。
彼のアドバイスは僕たちを飛躍的に戦力アップさせ、効率的なレベルアップへと導いてくれた。
その日も、僕たちはワイズマンの提案で、掲示板に書き込まれたある噂を調べようとしていた。
エリアで支離滅裂なことを喋り続けるキャラクターがいて、それがどうも怪しいのだという。
「怪しいって、どっちの意味?」
ブラックローズがたずねた。
「ゲームの隠しシナリオみたいな意味で怪しいってこと? それとも、『The World』的に怪しいってこと?」
「もちろん後者だ」
と、ワイズマンは言った。
「噂になるくらいだから、すでに何人ものプレイヤーがそのキャラクターと接触を試みている。だが、イベントが解放されたり新しい報酬が手に入ったりすることは一度もない。完全に、意味なくそこにいるだけなのだ。少なくとも、プレイヤーたちにはそのように感じられたとのことだ」
そのエリアは
ダンジョンを降りていくと、果たして最深部にそのキャラクターがいた。一見通常のPCのようだが、よく見ると体のあちこちが空洞になっている。
ターゲットすると、名前が表示された。プレアドというらしい。
僕が近づくと、プレアドは踊るような身振りでこちらを向いた。
「知ってる? 探し物してるんだけど、どこにあるか知らない?」
「何を探してるの?」
僕は尋ねてみた。
「それがわかんないから探してるの……わかんない。わかんないってなに?」
「あんた、おちょくってる?」
ブラックローズが言った。
「おちょ来る? おちょ来ない? 来るか来ないか、ネットスラムで待ち合わせ。時間も決めずに待ち合わせ。会えたらいいな待ち合わせ。きっと会えるよ待ち合わせ。わかんないわかんない」
ワイズマンは少し離れたところに立ち、興味深そうにプレアドを観察している。
プレアドは急に僕たちに興味をなくしたようにぷいと横を向いた。そのままゆらゆらと踊るように歩き出した。
「わかんないわかんない。今にわかる。わかんないわかんない。ずっとわかんない」
その時、プレアドの先をさえぎるようにして誰かが転送してきた。
それが誰なのか確認する間もなく、その人物は右手をぐいと突き出してプレアドの胴体をえぐった。穴の開いていない箇所を貫かれて、プレアドはひとたまりもなく消滅してしまった。
「あんた……リョース!」
ブラックローズが叫んだ。
リョースは腰に手を当てるとはき捨てるように言った。
「屑データめ」
「リョース? どうして?」
突然のことに驚いて僕は言った。
「デバッグだよ。不良データはデリートする。これも私の仕事だ」
「不良データって……」
「そんなことはどうでもいい」
リョースはそう言うと、僕たちをねめつけた。
「次の指示までおとなしくしていろと言ったはずだな? なぜ従わない?」
僕は返事に詰まった。
「いいか。おとなしくしろとは、何もするなということだ。指示に従え。わかったか? 以上っ!」
(続く)