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オルカの知り合いだというPCと連絡を取ることができた。
BBSに毎日目を通していて良かった。彼女が雑談のようにして「最近オルカを見ない」と書き込んでいたのを僕が発見したのだ。
連絡を取り、僕がオルカのリアル、ヤスヒコの友人であることを明かした上で、マク・アヌで会うことになった。
相手の書き込みに僕は何かを感じていた。僕が知らないゲームの中でのヤスヒコのことを詳しく知っている、そのように見受けられたからだ。
石橋の上でそのPCリンダと会った。彼女は
「君が連絡くれた人? オルカの友達の……」
彼女から声をかけてきた。
「どうも、リンダです。『The World』では情報屋をやってる。オルカにもひいきにしてもらってたんだ」
「情報屋?」
「まあ、そういうロールプレイってことだけど」
「いえ、そうじゃなくて」
僕は聞きなおした。
「オルカは、あなたに何か調べてもらってたってことですか?」
リンダはうなずいた。
「オルカは、『The World』にまつわる噂を調べてたんだよ」
「噂?」
「聞いたことない? 『The World』はただのネットゲームではない。その背後では別の目的を持った何かがうごめいている、って……」
僕はつばを飲み込んだ。
「別の目的を持った何かって?」
「それはわからない。オルカはわたし経由じゃない情報で何かをつかんでたみたいだったけど、教えてくれなかった」
リンダは首を振った。
「結局は、ただの噂だし。ホントにそんなものがあるのかどうか……でも、オルカたちはずいぶんと調査を進めてたみたいだよ」
「たち? オルカの他にも誰かいたんですか?」
そんなことも知らないのか、という目でリンダは僕を見た。
「バルムンクだよ」
思いがけない名前を聞いて僕は驚いた。
「蒼天のバルムンク、蒼海のオルカ。二人は、『The World』トッププレイヤーのコンビなんだよ」
そういえば、確かにバルムンクはオルカのことを相棒だと言っていた。
それに、初めて会ったとき、「ウィルスバグ」のことを知っていて、僕とブラックローズを逃がそうとした。
「人呼んで『フィアナの末裔』――『ザワン・シン』や『ソール・トトルの門』、『赤のイテリア』といった数々のイベントを攻略してきたツワモノさ」
僕にはよくわからない単語をいくつも並べた後で、リンダは悲しそうにうつむいた。
「でも、そのオルカでさえ、やられちまったってことか……アタシは降りるよ。君も、悪いことは言わない。噂のことなんか忘れちまいな」
「そういうわけにもいかないんだ」
僕は言った。
「僕は、オルカの友達だから」
リンダはかぶりを振って僕を見た。
「そうか……。じゃ、一つだけアドバイスしてあげる」
声を潜めて言った。
「この件には、運営が絡んでる。そういう噂だ」
「運営?」
「気をつけなよ。公式は信用できないってことさ」
お前はすでに見張られている――
あのヘルバの言葉を思い出した。
そして、僕のBBSの書き込みが削除されたことも。
リンダと別れてログアウトすると、メールが二通届いていた。
件名:*や#
送信者:ア#*
本文:
もう、こ*以上は*げ#れない。
ス*ィス#つかまったら、私は
今なら、まだ間に合う。今*ら、ま*間に合う。
今な*、まだ間*合う。今なら、*だ間に合う。
今#ら、まだ#に合う。今なら、まだ間*合う。
今*ら、まだ*に合う。今なら、ま*間に合う。
今#ら、#だ間に合う。
件名:DEARカイト
送信者:ヘルバ
本文:
ここで十字架を持った黒衣のキャラと少女が目撃されたそうよ。
少女の名は、アウラ。
このエリアの容量は今も肥大し続けている。
彼らはまだここに留まっているかもね。
僕は
ヘルバからのメール。底知れぬPCからの知らせ。信用していいものなのだろうか。
仮にこれが本当のことだとして、なぜ僕にそれを教えるのか?
先日のやりとりを思い出した。ヘルバには何か思惑があり、そして彼女はそのことを隠そうともしていなかった。
僕は彼女に利用されている……?
いや、と首を振って考え直した。
手がかりがほとんどない今の状況では、どんなことでも信じるしかない。
あの少女はアウラという名前で、今も「死神」に追いかけられているという。
もしかすると、文字化けした方のメールは彼女が送ってきたものなのかも知れない。
彼女はヤスヒコを回復させるための手がかりだ。彼女を助けなければならない。このエリアに行かなくては。
僕がとるべき行動はそれだ。
(続く)