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第12話

Hello, WNC

 

二十一世紀になると、ネットワークの世界的普及により、「情報の民主化」が起こった。

その結果、ネット上にアップされた情報を完全に隠蔽することが困難になり、独裁国家や警察国家は存続の危機に立たされる結果となった。そして、東南アジアにあった世襲制共産独裁国家や中東の軍事国家は二十一世紀初頭の五年間で体制の改革か国家消滅の道をたどることになる。

その反面、「情報の民主化」に従って通信トラブルやハッカーによるホスト攻撃、ネットワーク犯罪、電脳テロリズムが増加。さらに、その手段の多様化、悪質化が目立つようになった。

二〇〇二年九月、国連の下部組織として「ワールド・ネットワーク・カウンシルWNC」が設立され、インターネット環境下にあるすべての国家に対して参加が義務付けられた。

二〇〇三年一月、WNCウィンター・ミーティングが開催された。

しかし各国の思惑の違いとセキュリティに対する温度差から、それぞれの利権関係を調整することの難しさが露呈してしまい、結果的にWNCの限界を示す総会となった。

 

「Hello, WNC」は、そうしたWNCのうつろな権威を虚仮こけにするために作成された、極めて悪質なコンピュータ・ウィルスである。

ウィンター・ミーティング終了後のタイミングでこのウィルスは世界中に拡散され、被害件数は全世界で数千万件にも及んだ。

このプログラムはサーバーのメールを担う箇所のバグを巧妙に利用して他のホストへ侵入し、内容の改ざん・消去を行うというもので、従来のウィルスとは比較にならないほどの感染力を持っていた。

また、このウィルスは心得のある者にとって「極めて改変しやすい」というメリット(あるいはデメリット)を有しており、そのために亜流ウィルスが粗製乱造されたことも被害の増大に一役買った。

 

「Hello, WNC」はネット犯罪が複雑化していく最初の事件として扱われている。この事件がきっかけとなって、世論はネットワーク保安法の制定へと傾いていく。

 

(続く)