「.hack」シリーズポータルサイト

第13話

その時、僕はマク・アヌにいた。

すでにブラックローズと一緒に冒険を何回も繰り返し行っていて、初心者なりにそこそこのレベルに到達していた。

その日、彼女は所用があるとのことで不在だった。

そこで、一人で冒険するつもりでマク・アヌにログインした。

カオスゲートからショップのある奥へ行く途中、二人組のPCとすれ違った。

「――あれ、キミ?」

そう声をかけられた。

僕は足を止めた。そのときになってはじめて、相手の姿が異質なものであることに気付いた。

一人は、内気そうな、呪紋使いの少年。これは何の問題もない。

もう一人、声をかけてきた方が問題だった。

獣人だったのだ。

しかし『The World』で選べるキャラの種族に獣人などいただろうか?

それに、何をモチーフにしているのかよくわからない姿をしていた。

大きく長い耳が二本、頭上に伸びているところを見ると兎のようだが、顔のパーツ、特に縦に細長い瞳は猫のそれだ。

ボディは女性のように華奢だが、声は少年のようでもある。

つまり兎なのか猫なのか、女なのか男なのか、それさえも曖昧なPCなのだった。

「え? 僕?」

「キミキミ! そう、キミ!」

猫PC(仮にそう呼んでおこう)が身を寄せるようにして近づいてきた。僕は思わず半歩下がったが、相手はそれ以上に近づいてきた。

「珍しい腕輪しているね!」

猫PCは僕の右手をじっと見つめている。

まさか、と思ったが、そのそぶりは例の腕輪が見えているかのようだ。

「……見えるの?」

「もちろん。キミは、自分の素敵な腕輪が見えないの?」

返事に困っていると、猫PCは視線を上げて僕の顔を見た。

「目に見えなくても、そこにあるとわかってるなら、見えているのと一緒だけどね」

僕は腕輪のある手首を見つめたが、当然何も見えない。そこには何もない。

「腕輪?」

エルクと呼ばれた呪紋使いウェイブマスターの少年が、眼をぱちくりとさせた。

「ミア、何のこと? 僕には何も見えないよ」

その質問に答えず、猫PCはさらに寄ってきて僕の顔を覗き込んだ。近い。どうもこの猫PCは距離感がおかしい。

「ありがと。いいもの見せてもらったよ」

口元にはいたずらっぽい笑みを浮かべている。

「キミとはまた会うような気がする。なんとなくね」

「ねえ、ミア。早く行こうよ、エノコロ草がいっぱいあるところに……」

呪紋使いの少年が催促するように言った。

その声が聞こえたのかどうか、猫とも兎とも判別できない、男とも女ともわからないその獣人PCは僕に背を向けて歩きながら右手を上げた。

「じゃ、また。いつかどこかで」

そのままカオスゲートの方向へ歩いていった。

なんとも不思議な猫PC……

ふと視線を感じてそちらを見ると、呪紋使いの少年が僕の方をきつい目つきで睨みつけていた。

「ミアは……」

「え?」

「ミアは僕の友達なんだから!」

まるで叫ぶように言うと、少年は相棒の後を追って走り去った。

後に残された僕はあっけにとられて彼らを見送った。

おかしな奴がまた二人だ。

 

(続く)