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第54話

波の居場所が特定されるまでの間、僕とブラックローズはエリアの冒険をすることにした。

普段通りの鍛錬に勝るものなしというわけだ。

バルムンクとワイズマンも誘ってみたが、彼らは丁重に断わりを入れてきた。

バルムンクはプチグソレースのための調整で同行できない、との事だった。

プチグソというのは『The World』のマスコット的存在の生き物だ。タウンの牧場で飼育でき、餌を与えることでさまざまなタイプに成長していく。

ただ、まあ、外見的には結構癖が強いというか、寸詰まりの子馬とでもいうか、忌憚きたんのない意見を述べさせてもらうとかっこよくないし可愛くもない。はっきり言ってしまうと不細工である。

バルムンクは定期的に行われる公式のプチグソレースに毎回参加していて、しかもほとんど優勝を逃したことのない強豪なのだという。

正直バルムンクがこまめにプチグソを世話し餌をせっせと集めている姿とかちょっと想像もできない。

ワイズマンには、リョースとヘルバの会談のセッティングなどで、ずっと世話になりっぱなしだったから、今回の冒険の際にはそのお礼を言いたいという気持ちがあった。

しかし彼はタルタルガからネットスラム創世の話を聞くことに夢中になっていて、それ以外の時間を確保するのが難しいとの事だった。ワイズマンはメモ帳片手にタルタルガの行くところをついて回り、まったく彼らは老師と弟子のようになっていた。見た目はどちらも老師みたいだけど。

そういう姿勢を見ていると、なんとなく、やはりワイズマンは若いのだろうなと思えてくる。

とにかく、そういうわけで、僕はブラックローズと二人ででかけた。

カルミナ・ガデリカをまわって装備を整え、カオスゲートに戻ってくると、見知った顔がそこにあった。

「カイト。あれ……」

ブラックローズが指差した。

エルクだ。

カオスゲートの前で一人、所在なげにぽつんと立っている。いつも一緒にいる猫PCのミアはどうしたのだろうか?

僕たちが近づくと、エルクは顔を上げた。一瞬ミアと勘違いしたらしい。

僕を見てすぐに落胆した色を浮かべた。

「ミアはどうしたの?」

僕は聞いてみた。

「連絡が取れないんだ。見なかった? 今日遊ぶ約束してたのに」

「僕も見てないな」

「約束してたのになあ。もう少し待ってみよっと」

彼はひとりごとのようにつぶやいた。

「ねえ、もしよかったらだけど」

僕は言ってみた。

「ミア、一緒に探すの手伝おうか?」

エルクは信じられないことを言われたというような感じで僕の顔をまじまじと眺めた。

そしてぷいっとそっぽを向いた。

「ううん。いい」

僕は肩をすくめた。

ああ、そうだった。彼はそういう感じだった。

それで僕はエルクをその場に残してエリアへ行こうとした。

でもそうはならなかった。

ブラックローズがエルクの肩をがしっと掴んだのだ。

「いいから、あんた、一緒に来なさいよ」

「え、なんで? 僕、いいよ……」

エルクは体をよじって逃れようとしたが、ブラックローズの手はびくともしなかった。

「ミアがいないんなら、あたしたちが一緒に探したげる。ほっとけないし。それに人手が多いほうがいいでしょ?」

そう言われてエルクは大人しくなった。

ブラックローズはそのまま強引にメンバーアドレスの交換まで行った。

なんだか懐かしいものを目の当たりにするような気持ちで僕は二人のやりとりを見守った。

エルク自身そんなつもりはなかったのだろうけど、なし崩し的な成り行きで、彼は僕たちの仲間に加わった。

 

(続く)