3rdシーズンの全作品と繋がる物語がここに。「.hack」シリーズ初のWeb小説! (著 / 矢野将之)

Web小説 「.hack//bullet」

02 リーリエ

二十分ほど車を走らせると駅に到着した。自宅のマンションからよりも、仕事場である事務所からの方がむしろ駅に近い。駐車場に停めるためにロータリーを回っていると、駅の入り口から中学生の一団がわらわらと出てきた。ちょうどいいタイミングのようだった。

中学生らはみな学生服、セーラー服姿であり、それぞれ旅行用のザックやボストンバッグを抱えている。親から借りたのか、海外旅行で使うようなキャスター付きの巨大なスーツケースを引きずっている強者もいる。ああいうものを使いたい年頃なのだろう。

黒い頭の少年少女たちに交じって一人、金髪の女の子がいる。彼女は黄のボストンバックをランドセルのように背負い、両手には二つずつ紙袋を下げている。右手には棒のようなものを持っていて、よく見るとそれは赤樫の木刀だ。

曽我部は駐車場に入るのをやめて、手前の道路端に停車した。

車の中から眺めていると、彼女はクラスメイトらに手を振って別れを告げ、折りたたみの携帯電話を取り出して、番号を押し始めた。

曽我部は自分の携帯端末を持って待った。

やがて呼び出し音が鳴り響き、曽我部はすばやく指で画面をなでた。

「あ、リュージ? リーリエだよ。今駅に着いたところ」

リーリエの声が聞こえてきた。

「迎えに来て。西口で待ってるから」

「もう来てるよ。かっこいーい木刀持ってるじゃないの」

と、言うのとほとんど同時に、リーリエが曽我部の車に気づいて足を弾ませた。

車を寄せてドアを開けてやると、彼女は助手席に滑り込んできた。

「ただいま!」

「おかえり」

後部座席に身を乗り出してどさどさと荷物を置くと、体をよじってシートに座り直した。

「すごかったよ! 鹿がたくさんいたよ!」

中学一年の修学旅行。三泊四日で奈良と京都を回るという一大イベントに興奮の余熱いまだ冷めやらずといったところだ。

リーリエがシートベルトをつけるのを待って、曽我部は車を発進させた。その間も彼女は喋り続けている。身振り手振りに合わせて、長くカールした髪の毛がふわふわと動いている。

「それでね、陽が当たったら金色に光って、きれいだったの」

「金閣寺か?」

「違う、鹿だよ」

土産話を聞きながら、曽我部の運転する車はやがて自宅マンションに通じる道路へと入っていった。

「……でね。すごく大きくて、神々しくて、神秘的な雰囲気だったの」

「奈良の大仏?」

「違う、鹿だってば。もー、ちゃんと聞いてよ」

「偏り過ぎだろう」

曽我部はさすがに少しあきれて言った。

「鹿と土産屋だけしか見てないんじゃないのか」

リーリエは後部座席を振り返って紙袋を一つ取った。

「みんなの分を買ってきたら、こんなにたくさんになっちゃったの。ノム君のでしょ、ネネちゃんのでしょ、それにトキオでしょ……」

中身をあさりながら、リーリエは知り合いの名前をつぶやき始めた。

「ちなみに、その木刀は誰の?」

「これは、あたしの」

「ああ、そう……」

「リュージのお土産もちゃんとあるよ。ほら、京のしば漬け。試食したけど、おいしかったよ。晩御飯で食べよ」

「すまないが、仕事が入ってね」

曽我部は何気ない口調でやんわりと言った。

「帰りは遅くなるかも知れない。先に済ませといてくれ」

「え。そーなの? 一緒に食べようと思ったのに……」

曽我部の言葉に、リーリエはおかしなほどしょげかえった。

マンション手前の道路で車を停めると、リーリエは後部座席に身を乗り出して荷物を手にまとめた。

「一人で持っていけるか?」

「ん。大丈夫」

リーリエは華奢な見かけよりも意外に力がある。

曽我部は木刀を渡してやりながら言った。

「今日は早めに寝ろよ。それから、冷蔵庫にあるプリンはお前が食べていいからな」

リーリエは動きを止めて曽我部を見た。

「プリン? 先週のやつ?」

蒼い瞳がきらりと鋭くなった。

「あれ、賞味期限切れてるから片付けといてって言ったでしょ」

「そうだっけ」

「やっぱり全然聞いてないんだから。……洗濯物は?」

「え?」

「洗濯はちゃんとしてた?」

「そりゃ当たり前だろ……」

「ほんと? 事務所の方に溜めてない?」

リーリエは人の目をまっすぐのぞきこむ癖がある。曽我部は飴をくわえ直すふりをして目をそらした。

「どうだったかな。あー。ちょっとはあるかも」

「帰ってくるときに持ってきてね。明日の朝、まとめて洗うから」

「はい」

と、曽我部は言った。

「それから、ゴミ袋も買ってきて」

「ゴミ袋は確か……」

「ストックがあるのは不燃物用。可燃物の奴が切れてるから買っておいてって言ったけど、忘れてたでしょ」

「そうだね。思い出させてくれてありがとう」

「どういたしまして」

と、リーリエは言った。

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